近自然森づくり協会/研究会
kinshizen forestry association / society
ABOUT SWISS FORESTRY
スイスの森林管理と林業
スイス林業あるいは近自然森づくりをテーマとしたワークショップやセミナーにおいて、よく質問いただく項目を中心に、基礎情報をご紹介します。
◯ スイスの森林管理と林業
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国土面積は九州と同じくらい
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森林面積:130万ha(公有林70%、私有林30%)、森林率30%(日本は2,500万ha、67%)
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樹種構成:針葉樹 2/3(モミ・トウヒ)広葉樹 1/3(ブナ・ナラ・タモ・カエデなど)
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年間素材供給量:500万m³(haあたり日本の4倍)、木材自給率50%
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用途:建築・エネルギー・パルプ・家具など、最も高い値がつくのは針葉樹は窓枠用、広葉樹は突板用
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平均の素材価格は安く、建築材で8千円〜1万円/m³、チップで3千円〜4千円/t(土場渡し)
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集材方法:平地はハーベスタ、山岳地は架線(タワーまたは集材機)、中山間はトラクタウィンチ
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道路の構造:基幹道は屋根型、作業道・機械道は日本と同じ考え方だが、土壌保全の意識が非常に高い
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生産コスト:車両系4〜6千円、架線系7千円〜9千円/m³(皆伐が法律で禁止なので、原則択伐))
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補助金は林業(生産行為)には交付されないが、管理(保安林施業や環境保全)は交付対象
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更新は天然下種更新が9割、植林が1割、日本と同様にシカの食害が課題
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一般国民の意識として、森林には林業よりも公益的機能への期待が大きいのが現実
◯ スイスで林業従事者になるためには
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森林作業員:中学を出た後に事業体等で見習いとして働きながら職業訓練校(3年)に通って国家資格
をとり、事業体に就職するか起業
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自伐(農家林家):特に資格は必要ないが、他人の山を手伝う場合は2週間の安全講習修了が必要、農家林家の労働災害が問題となっている
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上級森林作業員:森林作業員の国家資格取得後、プロの作業員として働きながらステップアップできる資格として、現場監督、オペレーター、架線技師などの上級森林作業員資格がある
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フォレスター:森林作業員の国家資格取得後、プロの作業員として2年以上実務経験の後、フォレスター養成課程(2年)を修了してフォレスターの国家資格を取得し、市町村等のフォレスター職に就く
◯ スイスのフォレスターとは
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スイスの国家資格であり職業、主に市町村に雇用されて地域の森林管理を担う
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スイスの全ての森林は、公有・私有を問わずフォレスターの管理下にあり、フォレスターの許可がなけ れば所有者は木を伐ることができない(自家利用には例外があり、州によってルールが異なる)
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ひとりのフォレスターの担当面積は数百〜2千ha
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フォレスターが自分で作業班を持って事業者となることもあれば、作業班を持たずに林業事業体への外 注で林業を行うこともあり、担当区に公有林が多い場合は前者の形態を取ることが多い
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フォレスターの役割は、森林管理/林業を通じて、担当区の森林において木材生産・防災・生物多様性・ レクリエーションの全ての機能を持続的に高めること
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フォレスターの権限は、伐採許可、違法施業の取締、狩猟(ハンター)の取締、補助金の差配など
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実際の仕事は、公有林の管理、私有林の林業経営受託、集約化・境界管理、自伐林家への助言、保安林 での公共事業の実施、山林売買の斡旋、森林教育、林業や木材の PR、林業事業体の育成指導など
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つまり、山のことで何かあったらこの人に聞けば良い、それがフォレスター
◯ モミ・トウヒの単純林から近自然森づくりへ
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19世紀末までにスイスの森林率は十数%まで低下、水害の頻発などにより森林保全の機運が高まる
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20世紀に入り、モミ・トウヒの大造林時代が始まる(現在では森林率は30%まで回復)
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この頃から農家林家を中心に、多様な森づくりが各地で勃興(ただし少数派)
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20世紀後半になり、近隣国との競争に負けて、スイスの林業は一旦破綻
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1990年代の風倒害や病虫害の多発により、単純林から混交林への志向が高まる
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以上の歴史から、環境と林業の両立を目指す近自然森づくりの概念が普及した
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多様な森づくりで林業経営を自立させることのできるフォレスターはまだ一部で、林業改革は発展途上の段階
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近自然森づくりの考え方で森林管理/林業を行うことを前提に法制度が整備され、大学教育や職業訓練制度はこの考え方を現場で実現できる人材を育成するための体系に進化してきた